横尾真「オークション理論の基礎」⑤⑥

横尾真・九州大学主幹教授が、日本経済新聞「やさしい経済学」で連載された「オークション理論の基礎」(全9回、2018年2月23日~3月7日)を転載します。横尾先生および日本経済新聞社様の許可を得ています。今回は第3~4回です。

当ラボの第1回ワークショップ「オークションの基礎とCryptoeconomics」は、11月30日(金)に開催されます。リアルで有楽町Place 171に集まりましょう。すでに会場キャパシティーの7割ほどの申し込みをいただいています。関心がおありの方は、お早めにお申し込みください(そのページに申し込み方が書かれてあります)。


⑤ 検索連動型広告で採用 (日本経済新聞 2018年3月1日)

前回、入札で最も高い金額を記入した人が落札するが、落札者が支払う金額は2番目に高い入札額になる「第二価格封印入札」を紹介しました。この方式を用いた場合、商品の評価値を自分の価値観のみで曖昧性なく決められる「個人価値の商品」であれば、自身の評価値をそのまま入札額にすることが支配戦略(自身の利益を最大化する方法)となります。

この入札方式の場合、全員が自身の評価値をそのまま入札額として記入すれば、得られる結果は、英国型オークションで各入札者が支配戦略を採った場合とほぼ同じになります。また英国型では、物理的に、もしくは通信ネットワークを利用して参加者が一堂に会する必要がありますが、封印入札であればその必要はなく、郵便や電子メールでも入札できます。

このように第二価格封印入札は優れた特徴があるにもかかわらず、近年までは広く一般に利用されることはありませんでした。英国型オークションが直感的に分かりやすいのに対して、第二価格封印入札の良さを理解するのは難しいことが理由として挙げられます。

ところが近年、第二価格封印入札(厳密にはその拡張型)が、ある事例で採用され、現在では世界中で最も頻繁に利用される入札方式になっています。

その事例とは検索連動型広告です。例えば「ハワイ」というキーワードをグーグルなどの検索エンジンで検索した場合、検索結果と共に「広告」というただし書きのついた旅行業者などのリンクが表示されるようになっています。「ハワイ」というキーワードで検索した人を対象に、業者のサイトへのリンク表示をグーグルに依頼しているのです。

こうした検索連動型広告には、ターゲットを絞って広告を表示できるという利点があります。「ハワイ」というキーワードで検索する人は当然、ハワイに興味があり、関連の広告を読む可能性も高くなります。グーグルに依頼すれば、広告主が売りたい商品に興味を持ってくれそうな人を、広告主自身のサイトまで連れてきてくれることが期待できるのです。検索連動型広告の詳細について次回で引き続き紹介します。


⑥ 第二価格封印入札に脚光(日本経済新聞 2018年3月2日)

前回に続いて検索連動型広告について説明します。広告主が広告を表示したいキーワードに入札して広告を出稿すると、そのキーワードを検索した画面に、入札額の上位数件(実際には入札額以外に広告の質なども考慮される)の広告が表示されます。広告が表示される場所が上の方がクリックされる可能性が高いので、入札額の高い広告が上の場所に掲載されます。ただし、広告が表示されるだけでは料金は発生せず、広告がクリックされるごとに課金される仕組みになっています(入札するのは1クリックあたりの単価)。

さて、広告料はどのように設定すべきでしょうか。広告主が自身で決めた入札額を支払う場合、前に説明した第一価格封印入札と同様の問題が生じます。広告主は入札に勝てる範囲で、なるべく入札額を下げようとします。通常の入札ではどの程度まで下げればよいか判断するのは困難ですが、検索連動型広告の場合、自身が入札しているキーワードを検索して自社の広告が表示されるか確かめることができます。

実際、検索連動型広告が導入された当初は、広告主が自身で決めた入札額を支払う方式だったため、広告主が自ら検索して広告が表示されるかどうか確認し、広告が表示される範囲内で入札額を調整することが頻繁に行われていました。

複数の広告主が同時に調整しようとすると、入札額が揺れ動いてしまいます。そこで広告主が自分の入札額ではなく、その入札額よりも一つ下の入札額を支払うという、第二価格封印入札に準じた方式が採用されるようになりました。こうすれば、入札額を下げても自身の支払額が減るわけではないので、入札額を調整する必要がなくなります。

入札の対象になっているキーワードが検索される度に、その裏で、原理的には第二価格封印入札が行われていると考えると、世界中で最も頻繁に用いられている入札方式は第二価格封印入札ということになるでしょう。理論的に優れた特徴を持ちながら、実際にはまれにしか使われなかった第二価格封印入札が、インターネット上での応用事例での必要性から脚光を浴びているのです。


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