横尾真「オークション理論の基礎」③④

横尾真・九州大学主幹教授が、日本経済新聞「やさしい経済学」で連載された「オークション理論の基礎」(全9回、2018年2月23日~3月7日)を転載します。横尾先生および日本経済新聞社様の許可を得ています。今回は第3~4回です。

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③ 英国型、入札戦略は明確(日本経済新聞 2018年2月27日)

前回に続き、知人の代理でアンティーク家具のオークションに参加しており、10万円未満で落札できれば差額が自分の報酬となり、落札できなければ報酬はゼロという状況を考えます。前回のように第一価格封印入札の方式が採用されている場合、最適な入札額を決めることは難しいですが、競り上げ型のオークション(英国型とも呼びます)の場合には簡単な方法で報酬を最大化できます。

競り上げ型のオークションは、まず主催者が最低価格を提示します。入札者は提示された価格で買っても良いと思うなら手を挙げ、その価格では要らないと思うなら手を下ろします。複数の入札者が手を挙げていれば、主催者は価格を徐々に上げていきます。手を挙げる入札者が一人になった時点でオークションは終了し、その時点の価格で落札されます。一度手を下ろした入札者は再度手を挙げることはできません。

このオークションに参加する場合、どのように行動すべきでしょうか。例えば、主催者が最初に最低価格として10円を提示した場合には当然手を挙げるべきです。価格は徐々に引き上げられていきますが、10万円に達するまでは手を下ろす必要はありません。手を下ろした瞬間に落札できる可能性はなくなり、報酬はゼロになります。

一方、価格が10万円を超えたら当然手を下ろすべきです。結局、取るべき方法は、価格が10万円未満では手を挙げ続けて、10万円を超えたら手を下ろすという非常に単純な方法となります。他の入札者が何人であっても、また、それぞれがどのように行動しようとも、この方法が最適であることは変わりません。

このような行動は、他のプレーヤーのどのような行動に対しても負けない(他を支配する)戦略という意味で「支配戦略」と呼ばれます。知人の代理ではなく、自分自身が欲しい商品のオークションに参加する場合であっても、その商品に払ってもよい上限額(商品の評価値)を曖昧性なく決められるならば(自分の価値観のみで評価値を決められる商品を「個人価値の商品」と呼びます)、上記の方法が最適であることが保証されます。 


④ 2番目の入札額支払う方式も(2018年2月28日)

前回までに、公開競り上げ式の英国型オークションでは提示価格が自分の評価値未満であれば手を挙げ続け、評価値を超えた時点で手を下ろす方法が最適であるのに対して、他の参加者の行動に影響される第一価格封印入札では最適な入札額を決めるのが難しいことを説明しました。

今回も知人から10万円を預かって代理で入札に参加し、10万円未満で落札できれば差額が自分の報酬になるという状況を考えてみましょう。今回の入札方式はちょっと変わっています。最も高い金額を記入した人が落札するところまでは通常の入札と同様ですが、落札者が支払う額は自身の書いた入札額ではなく、競争相手が書いた2番目に高い入札額になります。

自分の書いた入札額をそのまま支払う場合、10万円を下回る金額で入札しないと報酬を得られませんが、この方式では迷うことなく入札額を10万円に決めることができます。預かった10万円より高い金額にはできませんし、10万円未満にすると勝つチャンスを逃してしまう可能性があります。入札額を10万円にすれば、他者が10万円未満の場合は確実に落札者となり、2番手の入札額を支払って差額を報酬として得られます。

つまり、この入札方式の場合、入札者は自分の評価値より低く入札しても意味はなく、評価値をそのまま入札することが最適な戦略(支配戦略)となるのです。英国型の場合と同様、他に入札者が何人いても、それぞれがどのように行動しようとも、これが最適な方法になります。また、英国型では手を挙げる人が一人になった時点の価格で落札するので、最後の競り上げ幅の分を除けば、落札者の支払額は、この入札方式の場合と同じになります。

この方式は「第二価格封印入札」もしくは提案者である米国の経済学者ウィリアム・ビックリーの名前にちなんで「ビックリー入札」と呼ばれます。ビックリーはオークション理論に関する研究が評価され、1996年にノーベル経済学賞を受賞しています。このように封印入札のルールをわずかに変更することにより、英国型のオークションとほぼ同様の特徴を持たせることができます。


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