横尾真・九州大学主幹教授が、日本経済新聞「やさしい経済学」で連載された「オークション理論の基礎」(全9回、2018年2月23日~3月7日)を転載します。横尾先生および日本経済新聞社様の許可を得ています。まずは第1~2回です。
当ラボの第1回ワークショップ「オークションの基礎とCryptoeconomics」は、11月30日(金)に開催されます。リアルで有楽町Place 171に集まりましょう。着々と申し込みをいただいており、関心がおありの方は、どうぞお早めにお申し込みください(そのページに申し込み方が書かれてあります)。
① 希少商品に適切な価格設定(日本経済新聞 2018年2月23日)
オークション理論は典型的には、ある商品を誰にいくらで販売するかを決める方法を扱います。クリスティーズやサザビーズのように、参加者が一堂に会して美術品などの値段を競り上げていく場面を思い浮かべる人も多いでしょう。オークション理論では、この公開競り上げ型に限らず、参加者が入札額を他者に知られずに申告する入札方法(封印入札)も含めて議論します。
オークションで扱う商品には、美術品のほか、個人の不用品や携帯電話で使われる周波数帯域の利用権、さらにはウェブページの広告スペースなど様々なものがあります。
それでは、どのような場合にオークションが必要になるのでしょうか。オークションがよく用いられる状況として、商品の数が限られている場合、例えば全く同じものは一つしかないといった場合があります。このような希少な商品に関しては、売り手が買い手にとっての商品の価値を正しく見積もることが非常に難しくなります。
自分にとっては無価値に思える商品が、別の人にとっては意外なほどに価値が高い、またはその逆といった状況が生じ得ます。同じ商品が多数あれば、とりあえず適当に価格を設定して販売し、よく売れるなら値上げし、売れないなら値下げするというように、売り手が適切な価格を設定することが可能ですが、希少な商品の場合にはそのような方法が使えません。
適切に設計されたオークション方式であれば、希少な商品に関しても買い手に価値に関する情報を開示させて適切な価格を設定することが可能になります。
オークション理論では、そもそも誰が商品を入手するのが望ましいのか、どうすれば適切な価格が設定でき、望ましい人に商品が販売されるのかといった問題を議論します。オークション理論はミクロ経済学の一分野であり、ゲーム理論などを活用して市場や制度の設計・修正を行うマーケットデザインと呼ばれる研究分野の主要な構成要素となっています。
② 数理モデルで説明可能 (日本経済新聞 2018年2月24日)
オークション理論では数理モデルに基づいた精緻な理論構築を行います。要は数学なので、理論の正しさは厳密に証明可能であり疑いの余地はありません。しかし、理論の帰結を現実の状況に適用する場合には、理論の前提が現実と合っているかをチェックする必要があります。前提が間違っていれば、当然、帰結が正しいとは保証できません。
例えば、以下のような例を考えてみましょう。あなたは知人に頼まれて、アンティーク家具のオークションに参加したとします。あなた自身はアンティーク家具に全く興味がなく、その家具にどれだけの価値があるのか見当もつきません。知人はあなたに10万円を預けています。
その家具を10万円未満で落札できれば、10万円との差額があなたの報酬となり、落札できなかった場合の報酬はありません。その知人とは特に親しいわけでもなく、自分の報酬を犠牲にしてでも、ぜひとも落札してあげたいとは思っていないとします。
ここで以下のような封印入札、すなわち入札の参加者はそれぞれ入札額を紙に記入して封筒に入れて提出し、最も高い金額を入札した人がその金額で落札するという方式が採用されるとしましょう。この方式は「第一価格封印入札」と呼ばれます。この場合、入札額をいくらにして提出すれば、自分の報酬を最大化できるでしょうか。
10万円に近い金額を書けば勝つ確率は高くなりますが、勝った場合の報酬は少なくなります。一方、非常に少額、例えば10円で入札した場合は、勝つ確率は非常に低くなりますが、万一勝った場合の報酬は大きくなります。
このように勝つ確率と勝った場合の報酬の間にはトレードオフがあり、平均的に得られる報酬を最大化するためには、他の入札者が何人いて、それぞれがどのように入札してくるかを予想する必要があります。このような予想のためには、他の入札者に関する情報が必要となり、もう少し詳しい前提条件を置かないと、最適な入札額を決定することはできません。次回に、簡単な方法で報酬が最大化できるオークション方式について説明します。
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