日本経済新聞社および坂井豊貴氏の許可を得て、2013年に日本経済新聞「やさしい経済学」欄に掲載された同氏によるマーケットデザインの記事を転載しています。
第3回 不確実性下の決定(2013/5/9)
第一価格オークションについて考えてみましょう。各参加者は入札額を決めてそれを主催者に提出し、一番高い入札をした人が勝者となりその金額を支払う方式です。
この方式は単純ですが、そのもとでの参加者の意思決定問題は複雑です。まず参加者としては、できるだけ安い値段で財を競り落としたい。しかし別の参加者も多数いるので、彼らより安い入札をしたら勝つことはできない。そして、払ってもよいと考える上限を超す入札はしたくない。
つまり一人ひとりの参加者は、自らの上限を超えない範囲で、他の参加者よりわずかにだけ高い入札を行いたいわけです。そして他の参加者がどのような入札をするか、事前には分かりません。全ての参加者がそうした状況に直面しています。
ですから、皆の予想が不確実である以上、蓋を開けてみると、そんなはずじゃなかったということが往々にして起こります。
例えば、自分は10万円まで払うつもりがあったが、他の連中は3万円程度しか入札しないと予想し4万円の入札をしたが、結果を見てみると5万円の入札をした奴がいて、自分は負けてしまった。
これは色々な意味で望ましい結果ではありません。まず、売る側としては、本来はもっと高値で売れるはずだったのに、それが実現しなかった。つまり収益性から望ましくない。
また、財に高い評価を持つ人が勝てなかったということは、オークション後にその人が、勝者から財を買い取る可能性があることを意味します。こうした転売は悪いことではありません。しかし転売の余地を残すオークション方式は、それ自体で効率的な資源配分を実現することに失敗している。転売そのものも、市場が未整備ならばうまくいかない。
更には、結果が予想に強く依存し、運任せになりやすいということは、公正なルールとは言い難いものです。いったい誰が悪いのでしょうか。誰も悪くない、悪いのは第一価格オークションという方式の性能だ、というのがマーケットデザインの考え方です。次回では、その欠点を解消する優れた方式である、第二価格オークションについて考えていきます。
第4回 耐戦略性(2013/5/10)
オークションの個々の参加者が、財に最大でここまで払ってもよいという上限の金額のことを評価値と呼びます。
第一価格オークションのもとでは、例えば自分の評価値が10万円だったとして、他の参加者の入札が3万円程度と予想するなら、それより僅かに高い金額の入札を試みるのでした。もしその予想が当たれば勝者となり自分の入札額を支払いますが、他人がそれ以上、例えば5万円の入札をしていれば負けてしまいます。
一方で、第二価格オークションは、一番高い入札をした人が勝者となり、二番目に高い入札額を支払う方式です。
するとこの方式のもとでは、評価値である10万円を申告すれば、相手が3万円の入札ならば3万円の支払いで勝者になるし、相手が5万円の入札ならば5万円の支払いで勝者になります。いずれにせよ10万円を超えずに勝者となることができる。
ゲーム理論では、相手がどのような行動を取ろうとも、自分にとって常に最適な行動のことを支配戦略といいます。第二価格オークションのもとでは、各参加者は、自分の評価値をそのまま提出するのが支配戦略になっています。
つまり参加者は、単純に自らの評価値を提出すればよいわけです。その行動が、相手がどのような入札をしてきても、必ず最適な行動になっている。だから相手の行動を予想する必要もない。戦略的意思決定のコストはゼロです。ギャンブル的ではない。
また、一番高い評価値を持つ参加者が買うので、効率的な資源配分が実現します。ギャンブル的でないので、場が荒れることも起こりにくい。長期的にオークションを運営する事業者としては、安定した収益が期待できるともいえます。
第二価格オークションは、第一価格オークションと比べると、定義が直観的でないかもしれません。しかしこの方式は、あらゆるオークションにおける優れたデザインの雛形となるものです。
第二価格オークションは、いったん入札額を提出したら変更ができない封印型の方式です。だから競り上げ式オークションとは一見大きく異なります。しかし両者は理論的にきわめて近い関係にあります。
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